『ダリアの帯 』 / 大島弓子 ~独りで忘れるために、狂うしかなかったんだ~

白泉社文庫『ダリアの帯』より
※ネタバレ注意

「彼女の名前は黃菜(きいな)
 奇いな名前でしょう?シャレです。
 3年前僕たちは結婚した
 黃菜は18歳でだったから
 双方の家から若すぎると反対された」

「しかし ふたりは 強引だった
 ゴーインマイ・ウェイ

若くして、両家の反対を押し切って強引に結婚した2人にも
長い付き合いを経て、祝福されて結婚した2人にも
結婚せずとも、お付き合いが長くなれば訪れる、倦怠期。

結婚3年目に訪れたのは、夫婦の倦怠期。
毎日の挨拶、毎日同じ繰り返し。
そんな中、夫の一郎が見つけたスリルは、同じ会社の雪子嬢とのプラトニックな浮気。

新たな楽しみに密かにワクワクする一郎を襲ったのは、黃菜のケガ。
自宅で階段から落ちた彼女は、ふたりとも気がついていなかったけれど
妊娠2ヶ月だった。
落下した衝撃で、お腹の子は還らない命に。

慌てて駆けつけた一郎に、黃菜はこう伝えた。

「あたし、知らなかったの いたなんて
 赤んぼうがいたなんて あたし、知らなかったの 
 あたし、知らなかったの」

ただそれだけを唱える黃菜。

 

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『つるばら つるばら』/大島弓子 ~自ら迷わず歩む者だけに与えられるご褒美~

白泉社文庫『つるばらつるばら』より
※ネタバレ注意

「僕は夢と現実の区別がつかない子だった。」

夢の中に何度も出てくる家、石の階段、バラの垣根、木製のドア。
この家に、知っているけど知らないおじさんがおいでって言ってる。
夢のお家は現実にはないと言われても散歩をして探しに歩きまわることが好きだった。

「用事がなくても行けばいいんだ」

「ケッコンすんだ」

「将来はニューハーフかな…」

このお母さんのカンは大正解。

継雄は年齢とともに女の子になりたいと願うようになる。
そしてその頃、彼は、自分が他人とは違うことに気づく。

「ぼくは 無口になり
 つとめて男子らしく 演技した
 僕の趣味も 
 僕の生き方も
 誰にも知られてはならないと思った。」

継雄はこの頃、バスケ部の布田一成に片思いをしている。

「それは思春期によくあるところの
 あこがれのたぐいではない。
 ぼくは
 彼を抱きたい。彼と暮らしたい。彼を独占したい。
 そういう”好き”なのだ」

ただ、彼はもう現実と夢の区別がつかない子どもではなかった。

継雄は母の望む「継雄」として、必死に家の中で演技を続けていた。

大人の、親の望む、子どもであれ。

継雄は偶然、学校の靴箱の前で、片思いをしている布田の生徒手帳を拾う。
それは悪意やいたずらなんかじゃなく、布田が落とした生徒手帳だ。

しかし、その生徒手帳を持っているところをバスケ部員に見つかり、
毎日、彼を追いかけ回す理由と問い詰められた。

「好きなんだっ」

継雄が勇気を振り絞って伝えた一言は、ただの下品な男子高校生らしいネタとなり、
布田は拾ってもらった生徒手帳を、

学校のゴミ箱に、継雄の目の前で、捨てた。

高校生の、単なる悪ふざけや冷やかしであったとしても、
大好きな彼に、自分の触れたものを捨てられた彼にそんな言い訳は通用しない。
彼は、一度、人生の幕を自身の手でおろそうとガス自殺を企てる。

「幕だ 幕をおろそう
 人生の幕を」
「ぼくは汚い
 ぼくゴミ
 ダストシュートに捨てよう」

すんでのところで、父親が部屋のドアをぶち壊し
継雄は一命を取り留める。
そして、夢の中で「知っているけど、知らないおじさん」に呼ばれる。

「死ぬんじゃない 死んではいけない
 死ぬな たよ子」
「たよ子ってなに あなただれ?」

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『山羊の羊の駱駝の』/大島弓子 ~透明人間として生きる君へ~

 

白泉社文庫『ロングロングケーキ』より。
※ネタバレ注意

この作品を読み終わった瞬間、私の頭には
誰かに微笑んでほしい寂しさで、ホストにハマって、自分を売る女の子が浮かんだ。
少女漫画で、書きますか?!とさえ思った。

11月の末、今月分のお小遣いをはたいて映画のはしごをした雪子。
映画をはしごしても満足感は得れず、街に立つ天使の格好をした男に興味を持つ。
それは「アフリカの恵まれない子どもたちへの寄付」を集めている、
どこの誰かも分からない男性だった。
映画でお小遣いを使いきってしまったが、帰りの電車賃は持っている。
試しに募金してみたら、その募金は

りんごん りんごん

と、素敵な音を立てて、募金箱に吸い込まれていった。

「ありがとう」
「その笑顔は天使様だった。お金を入れる音は、天の鐘の音だった。」

しかし門限を破ったことで、
過去はピアノの練習室であった防音室で父親からの説教を受ける。
その防音室について、雪子はこう説明する。

「わたしがこの部屋を最後に使ったのは
 十年前のことです。
 近所の子供が、つばいであったうちの犬を
 いじめて、噛まれてけがをしたときです。
 その日、学校から帰ると
 犬がいなくなっていました。
 父が保健所に連れて行き、薬殺したのです。
 それが父の体裁でした。」

「あたしは音楽室で
 犬の鳴く一生分を 泣きました。
 それ以来、あたしは泣いていません」

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UNIQLO中原淳一モチーフ浴衣と苦い想い出

先日、昼寝をしていた母を叩き起こしたこちらのニュース。

www.fashion-press.net

竹久夢二中原淳一のデザインをモチーフにした浴衣がUNIQLOで買える。

私は大島弓子も大好きだけれど、大正・昭和の挿絵画家も大好きだ。


10年位前から、
UNIQLOは夢二デザインのTシャツなどを出していたし、UNIQLOさんは頑張っていた。
でもその頃は、夢二も中原淳一も、華宵も、認知度は高くはなかった。
グッズも展示がないと手に入らないし、見つけたときにはものすごいテンションが上った。
知り合いに教えてもらって、
売り切れたら大変だと、新宿のUNIQLOにダッシュしたら、誰も見向きもしていなかった。

同じ10年位前、広尾に「それいゆ」という中原淳一ショップができた。

広尾の細い裏道に、真っ赤なドアーが目印のかわゆい佇まい。
中に入ると、かわいいパラダイス。
「こころがぴょんぴょんするんじゃ~!!!!!」は、
多分あのお店に入ったときに気分だと思う。
当時、中原淳一展とかをやらないと、グッズはなかなか買えなかったので
嬉々として、行ったこともないおしゃれな街、広尾を訪れたことを覚えている。

そこで反物を見つけた。
赤と白のストライプの、この表紙絵と全く同じ柄だったと思う。

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黄色と赤のデザインもあった…気がする。

どの絵か、思い出せないけれど…
10年前なので記憶が明確ではないけれど
ただ反射的に「あの絵の、あの反物だ!!!」と思った。

中原淳一の描く絵の中の、モダンで凛とした女の子に
私もなれるかもしれない!なんて思ったら

反物は身の程知らずと知りつつも、お値段を確認せずにおれなかった。

こっそり値札を見たら

30,000という数字が目に入って、

黙って伏せて、ポストカードを買って帰った。
今も同じ場所にあるので、是非好きな方には行ってほしい。
SHOP - 中原淳一ホームページ

中原淳一モチーフの浴衣が、UNIQLOなら6,000円で買える!
これはとても嬉しいけれど
この苦い想い出がセットになって、買う勇気がまだ出ない。

ちなみに、「サントリーオールフリーコラーゲン」のCMで
黒沢かずこさんたちが着ている浴衣は、夢二デザインの浴衣ですね。

個人的に中原淳一の知名度を鬼のようにぶちあげてくださったのは
美輪様の著書だと思っています。
美輪様、今後もガンガン布教をお願いします。

光をあなたに―美輪明宏の心麗相談

 

『さようならおんな達』/大島弓子 ~喪失から逃げ続けた先の景色~

白泉社文庫『さようならおんな達』より。
※ネタバレ注意(あとがき漫画もネタバレします)

 

1章「フン、あんたはまだ めざめていないわ」

まんがかきになりたい毬子。
町医者の父と優しい母の娘。
兄は生まれ持って心臓が弱く、内緒で出たマラソン大会で倒れて
還らぬ人となってしまった。

「死んだ兄さんの似顔絵をかいて、
 それにふきだしをつけて
 「おい、毬」ってやってみたら
 まるで兄さんが生き返ってきたみたいでうれしくて
 ひとばん ないたわ」

それから、単純にプロになりたいのでもなく、道楽でもなく「ただかきたい」のだと思う毬。

まんがをかいては徹夜をして母親の前で眠りこけてしまい、父の逆鱗に触れることとなる。
心臓が弱い母に心配をかける毬を、父は許せなかった。
兄を、医者でありながら、助けることができなかったから…
毬のまんがかきを続けるにあたって、「対決」が決まる。

「私も母さんが『好き』
 おたがい好きなものをうばいあう前に
 ひとつルールを決めて、対決しようではないか」

ルールは、

学校の勉強は疎かにしないこと。
1日に5時間以上、眠ること。
その上で、漫画雑誌投稿で第一席を取ること。

第一席を取ることができたら、下宿先を準備して、思う存分に描かせてやろうという父。
素人の投稿で第一席を取ることは、奇跡に等しい確率だと知っていても毬は否定できない。
それは父の

「お母さんに、兄さんの後を追わせてもいいのか」

という言葉が、嘘でも悪ふざけにも思えないからだ。

毬は兄を懐かしんで、父は息子を喪失した恐怖から、
お互いの「好き」を賭けた勝負をする。

前半は、登場人物のほとんどが、心に空いた穴を「誰かで代わり」に埋めようとする。
そんなことは無意味だと分かっていても
心に空いてしまった穴が大きすぎて、埋めなければ耐えられない状態なのだ。
そして誰もが優しくて、不器用すぎた。
誰かを責めてしまえばいいのに。
理不尽に八つ当たりをしてしまえばいいのに。
自分本位に、悲しい寂しいと叫べばいいのに。
誰も、それができなくて、自分1人で空白にどうにか耐えようとしている。

毬のまんがへの情熱は、死んだ兄への想いから。
その「道楽」を阻止せんと必死な父も、死んだ息子への想いから。
喪ったものを埋めるために、家族は対決を行う。

同じ頃、クラスで元委員長の才女・海堂茗から、毬は執拗に執着されていた。
少数の中の優れたリーダーシップを持つ者を探したいと
クラス委員長にされ、ノートやレポート集めに資料集め、
まるでクラスの「灰かぶり姫」となった毬。

やっとの想いで投函した「父との対決」の作品は中庭にエスケープして描いていたのだが、投函後、最後の1ページを中庭に落としいたことに気づく。
担任の先生から、出版社には届けてやるとフォローされ、毬は泣きながらクラスに戻るが
提出すべきレポートも、昼ごはんの注文も、何もかも忘れていた。

茗曰く

「空腹がいかりにはくしゃをかけて
 まるで18世紀のフランス市民のごとく怒りくるっている」

クラスメイトに謝罪した毬の額に、茗は「リンチ」と称し、唐突にキスをする。

そしてこう言い放つ。

「ふん あんたはまだ全然めざめていないわ
 なってない!なんにもわかっちゃいない!!
 ああはずかしい 人間に対するボウトク*1だわ」

「もしあんなもの佳作にでも入ったら…
 わたしはあんたのかいているもの
 有無をいわさずけいべつする」

茗は毬が落とした最後の1ページの原稿を読んでいた。
そして、その感想とも言える一言を毬に投げつける。

*1:

冒瀆(ぼうとく、冒涜とも書く)は、崇高なものや神聖なもの、または大切なものを、貶める行為、または発言をいう。 価値観が異なる人からすると冒涜の基準が異なるため、ある行為や発言を冒涜と感じるかどうかは各個人によるものである。 通常、性的な意味で戒律など神の教えに背く、または社会のルールを破る場合は背徳といい、区別されている。
冒涜 - Wikipedia

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